95GHz FMCW レーダーの開発・観測

FALCON-I

 当研究室では雲観測用の気象用レーダFALCON-Iの研究・開発を行っています。地球温暖化問題が生命にとって大きな脅威となっている昨今、地球環境を科学的に解明する事の重要性が以前にも増して高まっています。特に雲が環境に与える影響は大変大きく、大気をモデリング化する際の主要素でもあります。雲観測用レーダに期待されるのは、雲の内部構造の定量化です。主にレーダ反射因子による密度分布や粒径分布、ドップラー効果による雲粒の移動速度の2つを柱としてFALCON-Iは観測と改良を行っています。


図1:FALCON-Iの概観

FALCON-Iの主な仕様 FALCON-Iの主な性能
送信方式FMCW(周波数変調連続波)最大検知距離20km
中心周波数94.79GHz (W-band)距離分解能15m
周波数掃引幅±10MHz最低検出感度5kmで約-30dBZ
送信電力0.5W (27dBm)ドップラー速度最大±3.2m/s
アンテナ方式2アンテナ・カセグレン
アンテナ直径1m (送信と受信アンテナは同一形状)


実用にはほとんど影響はありませんが,散乱体の信号や雨、雲の放射とは考えにくい 種々の信号も受信されています(図2参照)。これらはノイズであると考えられます。 これらのノイズは取得データの質に関わってきますし、薄い雲の検出において問題になってきます。 これらのノイズの原因を特定し,軽減するためのさらなる開発も求められています。


図2:FALCON-Iにより取得されたデータ

FALCON-Iによる雲量観測

2004年度から(独)海洋研究開発機構の海洋地球観測船「みらい(図3参照)」に私たちの開発した雲レーダ「FALCON-I」を搭載し広い海域で観測を行っています。「FALCON-I」はコンテナに入れて船尾の右舷側に搭載し、24時間連続した観測を行っています。 これまでに観測を行った海域は、図4に示すような、北極海から太平洋のほぼ全域という大変広い範囲となっています。本年度は青森(関根浜港)〜グアム〜青森(関根浜港)〜ダッチハーバー〜北極海〜ダッチハーバー〜青森(関根浜港)と、南太平洋から北極海までの観測を行っている最中です。

図3:海洋地球観測船「みらい」 図4:これまでの観測航路

図5は2008年7月4日の1日のデータです。この日の船の位置はグアムの南方沖でした。これを見ると数10分程度の雨(スコール)が何回か降っている様子がわかり、熱帯の気候の特長がよくわかります。 図6は2004年度の北極海と太平洋で観測を行った結果より、高度別の雲や雨の検出率のグラフです。北極海では長時間低い高度に霧等をはじめ雲や雨が観測されていることがわかります。逆に、太平洋ではスコールが多く、雲や雨が短時間しか観測されていないことがわかります。このグラフだけでも、それぞれの地域での気象の特徴が見て取ることが出来ます。 さらに詳細な解析を行うことが期待されております。


図5:2008年7月4日の観測データ 図6:雲の出現確率の高度分布

ドップラーデータを利用した雲(雨)の速度の観測

FMCWレーダでは,周波数を挿引することで雲の観測を行っているが,そのとき受信された電波の位相を調べることで,ドップラー速度を求めることができる。 一例として2008年5月17日に千葉大学で観測したときの結果を図7に示す。 上図は反射強度、下図はドップラ速度を表している。 雨が降ったり止んだりしている様子が見てとれるが、下の図では 全体的に赤い色になっており、下向き3m/s程度の速度が確認できる。 一部青くなっているのは、1掃引ごとに位相がπ以上回転してしまって いるためだと考えられ、実際は下向きに3.2m/s以上である。


図7:雲観測時のドップラー速度

レーダーによる虫の観測

図8は2006年にNICT本部(東京都小金井市)で行われた、パルス式雲レーダSPIDER(NICT)とFALCON-I(千葉大学)との同時観測で得られた画像です。いずれの画像においても、14:00JSTごろから雲が発達し雨が降るまでの詳細な様子が観測できていることが分かりますが、雨が降っていない時間帯においても、高度2000m以下で何らかのエコーが現れています(黄枠内)。このようなエコー(非降水エコー)は、この観測だけではなく他の年や異なる場所での観測でも現れました。SPIDERの画像とは異なり、FALCON-Iではエコーが粒状に分かれて観測することができたで、これらの出現回数の計数や出現高度の分布を求めました。


図8:パルス方式雲レーダSPIDERとの同時観測を行った時の観測結果

これらのエコーの特徴として, があげられます。以上のことから,これらの非降水エコーは「大気プランクトン」と呼ばれる虫によるものである可能性が高いことがわかりました。また、本レーダの解像度から、FALCON-Iで粒状に観測されたエコーは1つ1つが1匹の虫に対応しているものと考えられます。今後は、さらに時間分解能が高いデータの解析や、ドップラ解析などを行ってより詳しい解析を進めていく予定です。

FALCON-IIの開発

2アンテナ方式では、送信アンテナと受信アンテナと別々なものを使用しています。 そのため、それぞれのアンテナが見ている空間にズレが生じてきます。このことを視差と言います。その視差のため、それぞれのアンテナで見えている範囲が高度により異なってきます。 もし送信アンテナと受信アンテナが全く別々の方向を向いていれば、いくら強力な電波を出して雲で反射させたとしても、その反射した電波を捉えることは出来ません。従って、感度は無くなってしまいます。それだからと、いくら視差を少なくしようとしても、2アンテナ方式である以上、完全に無くなることはありません。 視差を完全に無くすには1アンテナ方式にする必要があります。1アンテナ方式では、送信アンテナと受信アンテナを1つのアンテナで共用する方式です。そのため、送信アンテナと受信アンテナが見ている範囲が完全に一致し、視差が無くなることが容易にわかります。 では、視差による影響はどれくらいなのでしょうか。 図9に示すように両方のアンテナは基本的に天頂方向を向いていますが、若干内側に傾いています。この角度のα度としてその視差による影響を計算したものが図10のグラフです。 これは視差が全くない状態を基準とした感度の低下を示しています。 アンテナの傾きαを変化させて計算を行っていますが、わずか0.01度の単位で大きく変化していることがわかります。この調整は非常に繊細なものですから、これだけでも1アンテナ方式が優位であることがわかります。


図9:2アンテナ方式のレーダのビーム方向 図10:アンテナの傾きを変化させた場合のレーダの感度

また1アンテナ方式では、スキャンをすることが容易です。 一方向だけでなく様々な方向を向けて観測を行うには、アンテナをその方向に向ける必要があります。360度観測を行うにはアンテナをクルクルと回す必要があります。 このようにスキャンしようとしたとき、2アンテナ方式では2つのアンテナを同時にスキャンしないといけませんから、機械的にとても大変です。また、先ほどの視差の影響がありますから、スキャンしている間に向きがずれないようにしなくてはいけません。これもとても大変なことです。しかし、1アンテナ方式であれば、このようなことを考慮しなくても良く、容易に実現できることがわかります。 以上のことから,我々の研究室では,現在1アンテナ方式のレーダーの開発を進めており,現在,実用に向けた改善が進められています。


図11:1アンテナ方式の雲レーダ